関東都市学会2021年度秋季大会 逐語録

NPO・ボランティア/災害分野からの報告「コロナ禍における市民活動の展開」

(関西大学 菅磨志保)

 関西大学の社会安全学部で防災・危機管理に関する教育・研究に携わっております菅と申します。このたびは貴重な機会を与えてくださり、ありがとうございます。
 先ほど、米本先生がマクロな視点から、コロナ禍における都市や人流の動向についてお話いただきましたが、私の今回の報告は、そうした大きな動きが、個々の生活の中で具体的にどのような問題を生じさせ、そうした問題に対する支援がどのように行われたのか、支援に動いたNPOの活動に焦点を当て「コロナ禍における市民活動の展開」というタイトルでお話をさせていただきます。

 先に、本日のお話しの概要を述べておきます。コロナ禍の生活問題は、感染拡大という実際のリスクやそれへの対策によって生じた問題だけではなく、政府の緊急経済対策による経済活動の停滞が生み出した問題も多かったと思います。例えば、仕事を失いやすい非正規雇用者・シングルマザーがより困窮状態に陥り易く、仕事と住まいを同時に失い帰国もできなくて立往生する外国人の方々など、元々脆弱な立場に置かれていた方々の潜在的な問題が、顕在化していった印象があります。
 こうした問題に対して「市民セクター」(非営利民間セクター)の活躍が注目されました。「災害は社会の仕組みを可視化する」と、先ほど大矢根先生からお話がありましたが、結論から言うと、コロナ禍は、それまで「市民セクター」が活動や運動を通じて形成してきた仕組みや活動基盤を可視化した側面もあったかと思います。 また、これも大矢根先生のお話にありました「様々な調査が行われていた」ことと重なりますが、実践者であるNPOが自ら調査を行い、その調査結果を自らの実践の展開につなげていったという点で注目すべき取り組みだったかと思います。

 私の研究背景もご紹介しておきます。学部は都立大の社会学、大学院では社会福祉学を専攻し、貧困研究を行っていた研究室に入って1年が経とうとした時、阪神・淡路大震災が発生しました。被災地に親戚が多く住んでいたので、1か月後から手伝いに入ったことがきっかけで、災害時における被災者支援活動、特に「災害ボランティア」と呼ばれた人たちの活動に焦点を当てた調査を行い、都市学会でも災害時要援護者や災害ボランティアに関する研究発表をさせていただきました。都市学会入会から2年後ぐらいに神戸市に設立された防災研究機関「人と防災未来センター」に就職し、そこで防災行政の支援実務や防災研究に携わりました。その後、大学の教員になり、現在に至っています。ベースは社会学なのですが、災害研究、防災の実務にも少し関わるような形で研究を行ってまいりました。
 修士以降、継続して行っている研究が、災害時の被災者支援活動です。最近は、「ボランティア活動」より「支援活動」と言ったほうが良いかと思いますが、自助・公助以外の「共助」とも呼ばれる活動が多様に展開されるようになってきました。コロナ禍では、感染症拡大期における災害支援、なかでも「三密」の避難所の運営やそこでの市民による支援活動に注目していたところ、被災地以外の地域でも、コロナ禍で生活困難に陥った世帯が、ある種の非常事態を経験していることが見えてきて、コロナ禍の市民活動も研究するようになりました。
 「災害ボランティア」に関しては内閣府に設置された検討会で議論に参加してきました。感染症と災害支援に関しては、厚生労働省の調査事業で「在宅被災者支援」「災害ケースマネジメント」といったキーワードで分担研究をさせていただいています。本日ご紹介する内容は、本学部で編集中の書籍『検証 新型コロナウィルス災害』に寄稿した文章がベースになっています。
 昨年11月に『コロナ禍における日米のNPO』(柏木宏,2020)という書籍が出版されており、かなり詳細にいろいろな問題が取り上げられています。今日の話の内容も、ここから多くを得ているのですが、私自身も神戸でまちづくり系のNPOに関わっており、神戸の市民活動関係者の中でコロナ禍対応に関する意見交換を行う会を運営したとき、他都市・中央で行われているいろいろな取組を知ることになりました。これら各地の活動から得られた知見を通じて市民活動について考えていきたいと思います。

 実際にコロナ禍でNPOがどのような状況に置かれたかというと、まず、支援対象者が増加しました。普段支援している人たちがより一層困難な状況に置かれたので、支援活動の量を増やさなければいけなくなった。さらに、新しい問題も生じ、それらに対応しなければならなくなった。しかし、そうしたNPOの活動は、人と接触して行われるので、活動そのものを抑制せよという指示も出されるわけです。支援活動ができなくなることは、市民活動にとって事業収益の減少を意味します。
 こうしたNPOの状況がどのように生成されていったのか、時系列的に見ていきましょう。まず、最初の感染拡大が始まる前の2020年1~2月の段階では、中国の支援、国際協力NGOによる中国武漢への支援などが行われていました。具体的には、義援金・義援物資を現地に届けたり、国内で感染者差別に関する啓発活動などが行われたりしました。それが、3月に入り全国の学校が休校になると、国内問題になっていきます。共働きやひとり親世帯が子供を抱えて大変な状態に陥り、子供食堂や学習支援の需要が高まりました。さらに、4月の緊急事態宣言後は、経済活動の縮小に伴って解雇や減収で困窮する人たちが増え、そうした人たちへの物資提供が一層求められるようになりました。同時に、ステイホームが、家庭内暴力や家族関係のこじれから家出する子供を増やすなど、家族問題を増幅させたことで、各種窓口への相談件数が増えていきました。
 こうした活動需要増に対応して、NPOも、様々な工夫をして活動を継続しようと努めるわけですが、支援対象者が増える(支出増)一方、事業収益は減っているので、経営困難に陥るNPOが増えていきました。しかし、NPOが活動しなければ、本当に困っている方々への支援が無くなってしまうので、3月に全国一斉の休校が始まってから、NPOを支援する「中間支援組織」の活動が活発になり、全国域で情報を共有し、NPOを支援する体制が創られました。
 このNPO支援体制の内容をご紹介する前に、日本におけるNPOの実態を概観しておきます。内閣府の調査などで日本のNPOの実態が紹介されていますが、収入構造を見ると、事業収益の占める割合が高いことが分かります(従って、コロナ禍による事業停止が組織経営に与えるダメージの大きさも想像できる)。NPOの運営上の最大特徴は、自身が掲げる活動目標=社会的使命(ミッション)を果たすことが目的の組織であることです。このミッションを果たすためにサービス=支援を行いますが、支援対象者からサービスの対価を回収できない(無償提供の)場合もあるので、サービスの提供と同時に、活動に必要な資源を調達して、必要な資金・支援を確保していく努力をし続けることが宿命づけられている組織でもあります。
 実際にNPOの機能・役割という観点からNPOの活動を大別すると、「地域サービスの提供」と、社会問題に対する提言などの「政策アドボカシー」が挙げられます。各地の「中間支援組織」は、この2つの機能をつなぐ主体として、日本社会の中で形成されてきました。特に、NPO法の制定過程でロビー活動をしていた「シーズ・市民活動を支える制度をつくる会」――実はこの11月に解散しているのですが――は、NPO法が制定されてからも、NPO法人の立ち上げを支援してきたほか、NPO法の改正に向けた運動において様々な役割を果たしてきました。こうした中間支援組織は資源を提供する、先ほどお見せした図で言うと、「資源提供者」と、活動するNPOをつなぐ役割や、NPOの経営支援を通じて活動基盤を強化していくといった役割を果たしています。特に日本の中では、NPO法の制定やその後の法改正を通じて中間支援組織の全国的なネットワークが形成されてきました。中央―地方間の中間支援組織同士で、また、地域間で、さらに地域内でもネットワークが形成されてきたわけです。
 コロナ禍における中間支援組織の対応としては、まず、先のシーズが、3月5日に内閣府に要望書を提出しました。「新型コロナウイルス感染症対応に係るNPO法人の支援に関する要望書」です。ここでは①NPO法関係法令の弾力的運用、例えば、総会等をオンラインで行うことやオンライン決議を認めるとか、事業報告書の提出が遅れるのを容認するとか、そういった要望を提出しました。また、②NPO法人に対する財政的な支援として、中小企業向けの助成の対象をNPOにも拡げるように、またその助成の利用を促進することや、コロナ禍で中止にした(行政からNPOに対する)委託事業の費用を補償するようにといったNPO法人に対する財政支援。さらに、③支援施策の周知・広報を求めました。これに対して、内閣府は同日3月5日、「新型コロナウイルス感染症」に関する情報のページの中で、「NPO法に関するQ&A」などを公開して、要望の一部に対応していきました。
 そして、緊急事態宣言が発出された後の4月9日、岡山NPOセンターの代表理事兼日本NPOセンター理事から、NPO議員連盟に対して47都道府県247団体・個人の賛同者が名前を連ねる「新型コロナウイルスの影響によるNPO及び多様な市民活動の存続危機に関する支援に関する要望書」が提出されます。6項目の要望は、先ほどご紹介したシーズの要望書の内容とかなり重なっており、それに加えて、休眠預金の活用制度を柔軟に運用せよといった緊急助成などの資金的な支援の要望が追加されています。政府の要望書と並行して、都道府県・市町村域で活動するNPOや中間支援組織も同じく、自分たちの自治体に要望書を提出していきました。それらの多くは4月7日から1カ月の間に行われていて、全国的な連携の中で行われていったことがうかがえます。
これは26日に、4月9日の要望書に掲げたメンバーが中心になって、「新型コロナウイルスNPO支援組織社会連帯(CIS)」という組織が、日本NPOセンター内に設立され、ここが中心になって様々な情報発信が行われていくようになります。この組織が提供しているポータルサイトのURLをこのスライドの最後に示しており、後でご紹介しますが、全国で出された要望書の内容や各地で行われた調査のリンクがこのポータルサイトに貼られていて、一覧で見られるようになっています。このように、中央で、また、中央と連携する形で、各地でNPOの中間支援組織が中心になって政府や自治体に対して要望書が出されていくという動きが起こっていきました。
 このスライドの図は、NPOの経営の特徴を、その収入を構成する4つの財源に注目して整理したものです。特に、今回のコロナ禍で収益事業ができなくなったり、指定管理で委託を受けていた事業が中止になったりする等で大幅な減収があったわけですが、こうした状況を様々な調査で明らかにし、その調査結果を広く発信して社会にNPOによる支援の必要性とその経営が困難な状況を訴え、政府自治体に訴えていくことによって、会費・寄付金や補助金・助成金を獲得していくという活動が広く行われていきました。
 これが先ほどご紹介したCISのポータルサイトです。ここの「NPOアンケート」をクリックしていただくと、全国・各地で行われた調査が一覧になっており、閲覧できるサイトにリンクが貼られています。さらに、読みにくいですが、要望書が閲覧できるポータルサイトも公開していまして、この日本地図の中で、知りたい都道府県の位置をクリックすると、当該自治体の中でどんな要望書が出されたかが見られるようになっています。またここでもCISがNPOを対象に行った全国調査の結果も閲覧できます。4月実施、6~8月に実施した調査結果が閲覧できますが、8割のNPOが事業に何らかの影響を受けたことが報告されています。
 CISによる情報の集約・発信を通じた要望活動は「政策アドボカシー」といえるでしょう。これをするために、CISでは、各地で行われている調査や要望活動の情報を中間支援組織のネットワークを通じて集約していくと共に、NPOが必要としている資金助成に関する情報を収集して提供する。例えば、雇用調整助成金や持続化給付金、感染拡大防止協力金などが出されましたが、これらをNPO法人にも周知し、利用し易くするための条件緩和の要望も行い、それらの結果を発信していきました。
こうした緊急的なNPO支援を行うために、CISは、2020年9月頃までは特別体制を敷いていましたが、それ以降は、緊急体制を解き、関係組織間の情報共有のための定例会を行う体制に移行していったようです。
 以上、CISによる全国域の「政策アドボカシー」に関わる動きをご紹介させていただきました。私自身が災害支援に関わるNPOとつながりがあるので、余計にそう感じられるのかもしれませんがCISを構成する中間支援組織の多くが、災害を経験した自治体の組織であることは興味深かったです。では、各地域のローカルな活動はどのように行われていたのでしょうか。今回は、特にCISのような「政策アドボカシー」とは一線を置きつつ、ローカルな「サービス提供」の中で自分たちの問題解決に動いていった事例をご紹介したいと思います。
 これで与えられた20分が来てしまったので、ローカルな活動2事例の紹介はざっと簡単に紹介して、最後のまとめにつなげたいと思います。
 
 まず、栃木県の事例です。「とちぎボランティアネットワーク(TVN)」は、阪神・淡路大震災をきっかけに生まれた民設民営の中間支援です。「個々のSOSを支援する」をミッションに、「人助け」の活動を行っています。災害時は「たくさんの個人がSOSを発信する機会」ということで、栃木県外の被災地支援も行っています。この「とちぎボランティアネットワーク」は認定NPO法人ですが、認定NPO法人の中に「栃木コミュニティ基金」というコミュニティ・ファンドを持っていて、「地域課題を解決するプログラム」を実施してきました。2020年4月に、このネットワークに関わるNPOを対象に「緊急アンケート」を行い、「これからどんなことが起こるか」「今困っていることは何か」「どんな支援があったらどんな活動ができるか」を尋ね、その回答をもとに、「がんばろう栃木!コロナ支え合い基金」を立ち上げ、プロジェクトを募集し、審査して13事業726万円を配分しています。コロナ禍の前から行っていたコミュニティ基金をベースにした「プログラム開発」と「ファンドレイジング」の仕組みを中間支援組織のネットワークを活用してコロナの対応も行ったという事例です。
 次は、愛知県の「レスキューストックヤード(RSY)」の事例です。この組織の代表は、災害分野で全国域の中間支援組織の代表も兼任していますが、組織自体は災害現場で、直接的な支援活動もしているので、純粋な中間支援組織とは言い難いですが、全国の被災地域で行ってきた「情報共有会議」の運営経験をうまく活用して、愛知県内でコロナ禍に対応した「情報共有会議」を行っています。「コロナの困りごとの情報共有と相互補完をしていこう」、「コロナ禍で起こった災害への事前準備をしよう」、この2つを柱に活動しています。毎週火曜日の16時から1時間、きっちり時間を決めて、Zoomによるオンラインミーティングを行っています。
最初に困り事情報と提供できる資源情報を共有して、両者のマッチングを行った後、毎回テーマを決めて支援団体に活動報告をしてもらい、その後、Zoomの「ブレークアウトセッション」で少人数に分かれて意見交換をし、最後に全体で情報・意見を共有する、というルーティンで毎週行っています。小さくても、着実にニーズとシーズのマッチングをして、人や活動をつなぐことを大切にしています。注目すべきは、徹底した情報公開です。ミーティングの録画を編集してYouTubeにアップし、一般公開しており、さらにその議事録も同じサイトで提供しています。こうした情報公開によって、困りごとがどのように、つながりの中で対応されているのかが見える形で提供されています。こうした会議の運営そのものに災害対応で培われた経験とネットワークが生かされていることも注目に値するでしょう。

 まとめになります。特にコロナ禍の市民活動において特筆すべきは、NPOが自ら、自分達が支援している人たちの実態を調査し、また、中間支援組織が、NPOの経営状態を調査し、その結果に基づく要望書を政府や自治体に提出して経済的支援を引き出していくという活動を展開したことです。さらに調査結果を公開することによって、問題が可視化され、ファンドレイジングなどによる資金調達を促し、それを活動費用に充当していく…という活動の循環が生み出されていった。また、この活動循環の形成において、コロナ禍以前から地域内で培ってきたネットワーク、さらに、中央-地方間の中間支援組織のネットワークが生かされていたことにも注目しておきたい。
こうした一連の活動を振り返ってみると、「災害は社会を可視化する」といわれる通り、市民セクターがこれまで構築してきた活動の仕組みやその可能性・課題を照らし出していたようにも思えます。活動に制約のある条件下で、利用可能な資源を有効活用するために、それぞれの地域で様々な工夫が試みられ、新たな仕組みを生み出していました。その中で、本日は、災害対応を専門としてきた団体の取り組みを紹介させていただきましたが、例えば「情報共有会議」や「コミュニティ基金」も、コロナ以前からあった仕組みで、それらが積極的に活用されていたことや、組織間・セクター間の連携を促進することで、新しい問題の発見につながっていたこと等が具体的な事例として挙げられます。今日は詳細な内容をご紹介する時間がありませんでしたが、私も実際に何回か愛知県のミーティングに参加させていただいて、コロナ禍の市民活動の可能性を実感しています。
 他方で、これは先に紹介した柏木宏先生の本でも指摘されていることですが、差別や人権侵害、公権力に対するチェックに関わる活動は、限界と課題がある、という評価もあります。

以上

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《関東都市学会2021年度秋季大会 逐語録一覧》

【開会挨拶】大矢根 淳(関東都市学会会長・専修大学)
報告①解題・経済学分野からの報告「コロナ禍と都市の経済・人流」 米本 清(関東都市学会研究活動委員長・高崎経済大学)
報告②NPO・ボランティア/災害分野からの報告「コロナ禍における市民活動の展開」 菅 磨志保(関西大学)
報告③社会学分野からの報告「都市社会学とソーシャル・ディスタンス」 松尾 浩一郎(帝京大学)
報告④地理学分野からの報告「地理学におけるコロナ禍とポストコロナへの模索 ―都市地理学の視点から―」 戸所 隆(高崎経済大学名誉教授)