関東都市学会2021年度秋季大会 逐語録

開会挨拶

(関東都市学会会長・専修大学 大矢根淳)

 大矢根です。皆さん、こんにちは。今日はどうかよろしくお願いいたします。簡単なご挨拶に加えて話題提供ということで、5分ぐらいお話をさせていただきたいと思います。
 ここ1カ月ぐらいになると思いますけれども、特に東京、首都圏でコロナの新規感染者数が激減したことを受けて、少し社会的な活動がまたできるのかなと思ってきたところで、新しい、非常に未知の変異株ということが話題になってきて、今後寒くなる中でどういうふうに展開するのかなと不安なところです。

 今日はこういうテーマで学会の大会を進めていくことになるわけですけれども、この後、研究活動委員長から今回のテーマについて、解題をしていただくわけですが、その言葉の中で「コロナ禍」という使い方をされているわけです。毎日メディアに接していると「新型コロナウイルス感染症」という長い名前が出てくるわけですが、一方で、最近では新聞などでも「コロナ禍」という言い方がよくされるようになってきています。私の自己紹介がてら、その言葉について紹介してみたいと思います。
 実は、今、1冊、本を書棚からとってみました。『災害における人と社会』、これは翻訳ですけれども、1998年に出た翻訳書です。そもそもは1942年、第二次世界大戦のさなかにアメリカで出版された本で、私自身は災害社会学を専門にしているのですが、災害社会学を学んでいる者にしてみると、災害社会学史という概論を学ぶときに最初の1ページ目に出てくる本になります。この本自体は阪神・淡路大震災の後、災害研究に非常に興味が高まったときに機会をもらって私が翻訳したものですけれども、この本は、だからといって地震だとか火山噴火だとかいわゆる自然災害を対象にしているのではありません。4つの災害を対象にしています。まず、「飢饉・飢餓」です。その後に「伝染病」、コロナに関係しますね。当時はインフルエンザが話題になっています。あるいは黒死病(ペスト)が話題になっています。飢饉があって伝染病があって、そして、内政の混乱から「革命」が起こって、これで海外に展開していく「戦争」になっていく、この4つの大きな出来事で人類の歴史は大体説明できるというものです。社会学の文献史学的な研究の一つの古典になるわけですけれども、この中で、いわゆる「パンデミック」が扱われていました。
 そこでは「disaster」という単語が使われないで「calamity」という単語が使われていたということで、この災いを「禍」という字を当てて我々は翻訳をしてきたところです。一般的な災害には「disaster」という語が当てられていたわけです。
 こういう古典を勉強していたこともあって、今回、コロナの状況で、私自身はこの丸一年くらい、「コロナ禍」という言い方をしてきています。今日も解題のところでこの言葉を使って少しご説明がされることになると思いますが、災害社会学を少し古くから学んできている者にとっては、「禍」という字を使うと非常になじみがあるということを、最初に、自己紹介がてらに紹介をさせいただきました。

 私自身は災害の研究をやってきたということなのですが、次に、こんなことを論点としてご紹介しておきたいと思います。特にコロナ禍という状況では、「ウィズコロナ」という言葉が使われていることを一つここで触れておきたいと思います。あるいは、「新しい生活様式」ですとか「新しい社会」という言葉も使われています。よく使われる言葉では「ウィズコロナ」があると思います。実は、この「ウィズコロナ」という考え方、状況の設定、社会的対応の設定自体が大きな災いをもたらすのではないかということが災害社会学の古典の勉強をしてきている中では、アナロジーとしてどうしても思い浮かんできてしまう事柄だということをお話ししてみたいと思います。
 災害が起きると大変な被害が起こりますけれども、そこから復旧・復興の段階に至って、復興という出来事によって災いを被る人がたくさん出てくることが、特に阪神・淡路の震災時によく言われました。災害復興の復興で被害を受ける人がいるということで、「復興災害」ということが言われてきたわけです。例えば、復興の公共事業の中で家の立ち退きを迫られて住処(棲家)を失う人が出てくるというようなことです。そういうことがあまりにも多く報告されて、そのようなことが議論されてきたことを受けて、それでは災害が起きる前に復興を考えておこうということで、「事前復興」という考え方が出てきたわけです。そうすると、これは今の説明の展開で簡単に想起されることですが、その事前復興という取組を進めていくと、その事前復興の取組で生活の基盤を失う人が出てくるわけです。ということで、事前復興における災害が起こってくるということ(事前復興災害)が次第に明らかになってきて、そういう事例が次々に報告されてくるようになるわけです。よかれと思って皆さんで事前に復興を考えておこうという取組を始めたところが、そういう議論についていけない人、そういう議論の展開として起こってくる防災まちづくりの活動で被害を受けてしまう人が出てくるということです。
 実はこの10年ほど、東日本大震災が起こった後、特に国土強靭化という、我々災害社会学の分野では「レジリエンス」という概念を「復元=回復力」と訳して使っていたのですが、この「レジリエンス」という言葉が国連防災世界会議(仙台)で使われて広がっていく中で、日本ではある一部の業界で「国土強靭化」と訳して使っていたのですが、これを政府も使うようになって、そうすると、国土強靭化というスローガンのもと、事前復興災害が日本中で起き始めているということも見えてきているわけです。それはこの10年ぐらい、東日本大震災以降の展開です。
 というところでコロナが発生したわけです。これが第1波、第2波、第5波まで起こって今度は第6波、そして、新しい変異株でどういう展開になるかという非常に不安な中で、次の私たちの生活の社会のステージを考えて構築していかなくてはいけないということで、「ウィズコロナ」ということが言われてきた。先に少し触れたように、災害があって、災害復興があって、復興災害がある。そういうことが起きないように事前復興を考えていたら、事前復興災害というのが現に起こっているということです。ということは、「ウィズコロナ」という体制、システム構築の中で、「ウィズコロナ災害」が起こってくるということが認識的にアナロジーとして考えられるというようなところです。これは2点目に論点として紹介をしておこうと思います。
 ウィズコロナ災害をどのような形で実際に我々は調査して把握していくことになるのだろうか…、今日は4人の方が登壇していただきます。様々な専門の領域からコロナという状況、都市の状況、生活の状況、そこでの意識、心理の問題というふうに各論で論じていただくわけですけれども、そういうようなことをきちんと聞いていくと、私が今言ったような「ウィズコロナ」「ウィズコロナ災害」を把握する調査の在り方ということも少し角度が見えてくるのではないかと思っています。

 最後、3つ目ですけれども、そのような状況の中、今、それぞれの学会でさまざまに議論が展開されていますが、どういうふうに現場、出来事を把握していくのか、いわゆる社会調査という営みになるわけですが、どのような手法で、あるいは、どのような立ち位置で、どのようなメンタリティーでそれが実施できるのか、あるいは実施が難しいのか。これは皆さんもそれぞれの領域の調査研究の中で、ご所属のそれぞれの学術的な機関・学会の中でも、ウィズコロナ時代の調査研究の在り方というテーマ、実は今日この場もそういうテーマの一環として設定されているわけですが、皆さん考えてこられたのではないかなと思います。
 私自身は災害社会学ですので、そういうことを考えながら調査に取り組んでいるわけですが、それぞれの大学の考え方で、現地調査の出張がなかなか認められないなど、仮にそれが認められても、かなり現地活動には制約が課せられてくるということも出てきていると思います。実は、私自身も昨日まで宮城県石巻に学生を連れて、本当に短時間ですけれども、現地を歩いて、限られた方のインタビューをするということをやってきたばかりです。このコロナの状況が今の数値だからこそ大学からも許可されたということで、実は来週末もそこに日帰りで行くことになっているわけですけれども、これがどんなふうに我々の実習クラスの工夫の中で可能になってきたのか、どのように企画をすれば出張が認められるのか、大学当局を納得させられるか、そんなことをいろいろ考えてきたところです。
 私自身の例で言うと、看護学の領域で行われている臨地実習での工夫の在り方が非常に参考になりました。一方で、我々文系、人文社会科学系の大学では、例えば教職課程がありますが、教職課程では教育実習が免除されることとなった。これで教員免許が取得できるようになってきているわけですが、看護の臨地実習では、このコロナ禍でもきちんとベッドサイドのコミュニケーションや身体に接しての看護・介護をやっていかなければいけないということで、どういう工夫をすればそれが可能かということが議論されてきて、学会で手法が共有されてきているということが幾つかの報告書で明らかになってきているのを我々はこの半年ぐらい学んできました。
 ということで、昨日までやってきた私自身の社会学的な現地調査、学生をそこに連れていくところで採用した手法は、2つありました。その2つは、いずれも危険地域取材を行うジャーナリストの手法を一部演用してみるという試みで、ストリンガー利用とプール取材の2つを組み合わせてやってみました。ストリンガー利用とは、現地の事情通に頼んで、こちら側から調査の内容をお伝えして、現地のその状況に詳しい人に動いてもらって情報を集めていくという方法です。一方で、プール取材というのは、総理や大統領の取材に、特別機に同行していく記者のような感じですけれども、ごく限られた少人数に取材を委託する形で情報を収集するというやり方です。今回は学生代表を数名連れていくというプール取材の手法を使って、それを引率する教員、私自身がストリンガーとして現地事情通の立ち位置として、学生2~3人を連れていくというストリンガー利用併用のプール取材ということをやってみました。学生の数が少ないので、かなり収集される情報の種類と量は限られてきますけれども、一方で、ストリンガーとして現地事情通である私がそこで動くことによって、かなり的確に情報を集められるのではないかということで、その模様をポケットWi-Fiを使って、大学のオンライン授業で使っているZoomですとかGoogle Classroom Meetを使って、取材の模様をテレビの生番組のように中継するというような形で、在京・教室で画面を見ている本部事務所にいる学生からいろいろ質問をもらいながら、それをストリンガーとして調査していく。
 このような環境の中、コロナ禍というところでも、我々は目の前の、あるいは、数年前から企画、準備している調査企画を何とか遂行していかなくてはいけないという中で、例えば、看護の臨地実習やメディアの危険地域取材の手法を少しずつ紐解き援用しながら組み立ててみているところです。

 今日はそれぞれの領域の先生方に、いくつかのテーマについてご紹介いただこうと思います。順不同になりますが、私たち社会学に近いところからは、帝京大学の松尾先生から「ソーシャルディスタンシング」についてご紹介いただきます。経済学の分野からは、高崎経済大学の米本先生に「都市の人流、経済について」、経済の領域からのご報告をいただきます。それから、地理学の分野からは、高崎経済大学名誉教授の戸所先生に、地理学における、さらにポストコロナというところを見通してご報告いただきます。それから、市民活動の領域については、関西大学の菅先生に、特に我々に近い分野ですけれども、災害という領域での調査研究ということで、NPOへのボランティア、市民活動というようなところに着目してご報告いただくことになります。今日はそこでご報告いただいた後に、グループに分かれてそれぞれの立ち位置からご提示いただいた論点について、さらに議論を重ねて深めていくワークショップを展開していくことになります。これから少し長丁場になりますが、今日は午後いっぱい、どうか積極的な参加、議論をよろしくお願いいたします。
 私のご挨拶と若干の論点のご紹介はここまでにいたします。

以上

ホームページトップへ戻る

《関東都市学会2021年度秋季大会 逐語録一覧》

【開会挨拶】大矢根 淳(関東都市学会会長・専修大学)
報告①解題・経済学分野からの報告「コロナ禍と都市の経済・人流」 米本 清(関東都市学会研究活動委員長・高崎経済大学)
報告②NPO・ボランティア/災害分野からの報告「コロナ禍における市民活動の展開」 菅 磨志保(関西大学)
報告③社会学分野からの報告「都市社会学とソーシャル・ディスタンス」 松尾 浩一郎(帝京大学)
報告④地理学分野からの報告「地理学におけるコロナ禍とポストコロナへの模索 ―都市地理学の視点から―」 戸所 隆(高崎経済大学名誉教授)